幼少の頃、親が仕事で忙しくて一人っ子の私は、いつも犬舎で犬たちと遊んでいました。
犬が小さい頃は私が保護者だったものが、人間の数倍の早さで成犬になると、今度は逆に小さい私を励まし、時には辛い涙をなめてくれました。私にとって犬は家族以上の存在だったのです。
この体験から、ものいわぬ彼等の言葉を聞いてやりたいと思って獣医師の道へ進んだのは自然の成り行きでした。ところで動物たちは具合の悪さを言葉では表現できません。症状が出てきた時には、かなり病気も悪くなっており、痛みや苦痛を味わって、それが心にも傷を負わせているのです。そこへ病院へ連れてこられて、家族以外の人間が触ったりするのですから、その不安は人が想像する以上に大きいものがあります。
私たちは、まず動物たちの不安感や心の痛みを取り除くことから治療をはじめます。動物たちは症状を言葉では説明できないのですから、より正しく病状を把握するために時には人間用の高性能の器具を駆使した診察など、様々な設備を整え、適切な処置を行ったりします。
私が当院のスタッフたちにいつも話すのは「自分や、自分の家族が病気した時に、どうしてほしいか考えなさい。自分がしてほしいことを患者さんにしてあげて、自分が接してほしいように接してください」ということ。
心のケアは治療効果を著しく高めます。医療を受ける側の立場を理解して、体の傷だけでなく、心の傷を癒してあげる治療をすること、それがこれまでの、そしてこれからの私たちの願いです。
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